三重県子どもNPOサポートセンターへ取材に行きました!
「子どもの権利条約」をご存知でしょうか。世界中すべての子どもたちがもつ権利を定めた条約です。1989年に国連総会で採択され、日本は1994年に批准しました。そして三重県では、2011年に「三重県子ども条例」を定め、子ども達が自分らしく健やかに育つことのできる地域社会の実現を目指しています。三重県内各地の自治体でも「子どもの権利条例」の策定が進み始めています。
「子どもの権利」を守る条約や条例が社会の中で重視されるということは、「子ども達の権利」が守られていない状況にあることの裏返しです。子どもの権利条約には、子どもの「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の保障がうたわれています。
三重県の子ども達の状況や課題に対して長年活動をし続けている、三重県子どもNPOサポートセンター理事長の田部眞樹子さん、事務局長の竹村浩さんにお話を伺いました。
子育ち、子育てってなんだろう。
「夫が会社を設立するために1年2ヶ月の子どもを連れて東京から三重へ。三重には親戚もなく、孤独なる子育てをしていたのですが、周りの方に助けていただくことで、娘を無事育てられたと思っています。目下の活動はご恩返しです。
私たちの組織は丁度50年前に子ども劇場とかおやこ劇場というネーミングで、子どもの権利条約の31条を中心に活動が始まります。当時テレビなどの子ども向け番組が低俗化したこと、子どもの世界から遊びが消えてしまったのを憂えたお母さん達が立ち上がったのです。三重県では、1973年四日市に始まり、伊勢、津と広がって、県内殆どの市に誕生しました。そして、三重県子どもNPOサポートセンターの前身である「三重県子ども劇場おやこ劇場協議会」を1991年に発足させます。親と子で「舞台芸術を共に鑑賞する」機会とキャンプなど子どもの活動を通して、新しい出会いや交流の場ができました。『こども劇場』の活動から子どもたちをみんなで育てていく。親もこの活動を経験し豊かになったと感じています。」(田部さん)
「大学在学中にこども劇場主催のキャンプにボランティアで参加したことがこの活動との出会い。当時は夏休みに小学校高学年の子どもたちを集めてキャンプを行っていました。子どもたちと一緒に事前に班会をして、キャンプで何をするかなどアイデアを出しながら一緒に決め、企画実施していました。今思えば、子ども主体の活動をしていたんですよね。学生の時に活動に参加しない?と誘われての今です。やりたいことが仕事になりました。」(竹村さん)
1966年、高度成長期に全国的に設立された「子ども劇場」。子ども達の様々な芸術体験、自然体験、社会体験を行い、全国で800以上の団体、50万人以上の会員が活動に参加していました。しかし、社会が変わり、ニーズが変わり、「こども劇場」に参加する子どもも親も少なくなってきました。一方で、いじめや体罰、虐待、貧困など子どもを取り巻く環境の変化がすさまじくなっていました。
「ある時、会員の一人に「子どもに見せたいものは自分が名古屋まで連れていく」と言われました。その時に、親の考え方やニーズが変わったことを突き付けられました。方や、子どもを取り巻く環境は悪くなる一方組織の在り方論が問われたのです。
当時、三重県は北川正恭知事のもと、市民活動、NPOが社会を担う重要なセクターであることが示されていました。県庁に市民活動支援の施策やNPO室ができ、NPOの役割が注目された時期です。
NPOに一番大切なことは『ミッション』だとアメリカに視察に行ったとき痛感したのです。今後どのようなミッションのもと、どのような組織にしていったらいいのかー。しっかり話し合った。最初は親子でお芝居を見ることが第一義的な目的になっていましたが、それだけで本当に子どもは育つのだろうか、子育ち支援、子育て支援って何だろう、と投げかけをしながら、3年程かけてミッション論議をしました。そしてミッションを具現化する現場づくりを。名称も「三重県子どもNPOサポートセンター」に変えました。」(田部さん)
親でもない、教員でもない、大人との関係づくり
「有史以来だと思うくらい子どもにとって今は、苦難の時代だと感じています。なぜ子どもが自殺したくなるのでしょうか。その要因も明確ではありません。死にたい気持ちが湧いてくる子ども達。自分の未来が描けない中での不安。その中でもがいている子ども達。自分の存在を否定している子ども達。子どもには力があって、可能性があるってことがわからなくなっている。そういう風に育っていないから。大人がそのことを伝えていないし。子ども達に1人でもいいから信頼できる大人がいれば、と思います。
子ども達がいる施設に1週間に1回、学習支援に行っていますが、少しずつ関係性が育まれて少しずつ信頼されるようになって、子どもが秘密を打ち明けてくれるようになったりします。学習支援で、宿題を一緒にすることは一つの手段だと思っています。子どもとの距離を縮めるための方法とでもいいましょうか関係性を育むことが目的です。子どもたちがこの社会に信頼に値する大人がいると思えることがどれだけ大きな価値を持つか。子ども達は大人をそのように見ています。
『斜めの関係』を作る必要があります。斜めの関係というのは、利害が絡まない関係のこと。親でも教師でもなく、子ども達が自分らしくいられる人との関係性。子どもたちは利害が絡む人には自分に制約をかけて接している。私たちはそうではない関係の大人であり、役割があると思っています。
子どもたちからの電話で相談内容に最も多いのが家庭のことです。家ではいい子にしていなくてはいけない。講演会で、お母さんを対象に「ご自分のお子さんのことを『いい子』だと思っている方はどのくらいいますか」と尋ねると、10〜15人くらいの方が挙手されます。その後、「『いい子』と思っている子どもがとても危ない」という話をして、最後にもう一度「自分のお子さんは『いい子』していると思いますか。」と尋ねると、それでも5〜10人くらいは手をあげる。つまり、子どもの第1条件は『いい子であること』なんです。親は、自分にとってどういう子どもであるかが大事なんでしょう。
そのことがいじめにもつながっていると思っています。そういった状況だったら子どもたちはストレスを抱えます。友達にニコニコすることなどできない。自分より弱いものにあたることでしか発散できなくなる。自分の精神状態が安定していなかったり、自分の心が平和、平穏でなかったら、誰かに文句つけたくなりますよね。」(田部さん)
「今の子ども達は、その存在感の薄さと自己否定感がとても強いです。存在していることの価値や存在を肯定する大人がいなくなった。子ども達の身近な大人は親か教員くらいです。子どもからすると、親も教員も利害関係者です。良い子でいるしかない。いい顔をせざるを得ない。子ども達が気を使って良い子でいなくても、いい顔をしなくてもいられる第三の人、大人が必要なんです。
親や教員の言うことをきく子どもが『良い子ども』だと忖度させる。だから子どもはずっと『いい子』を演じ続ける。子どもにとってはとても不幸です。自分らしさを認めてもらえない。自分らしさを出すことができない。親や教師のフィルターのもとでしか生きることができない。どこかで爆発をしてしまう。それが問題になるのです。」(竹村さん)
気持ちを伝えることの大切さ
「『チャイルドライン』ではチャットもしています。子ども達は相談をするのにチャットの方がしやすい、ハードルが低いんです。特に女子はチャットが多い。書くという作業は大事です。自分の気持ちや思いを整理することができる。男子は電話が多いです。
多分、自分の気持ちを聞いてもらってこなかった。言えないのではなく、「君の気持ちは今どうなの?どうしたい?」ということを誰からも聞かれなかった。いつも「こうしなさい」と大人に言われ続けてきたから、子どもは自分の気持ちや思いを言う必要もなく、「従うだけ」になってしまっています。」(竹村さん)
「文字化することは、直接声で聞く事とは違っています。そういう意味では、サポーターの力量が問われます。でも、子どもたちは書くことで自分の気持ちを整理する作業も同時にしているのではないかな。書いて読みなおすことで客観視できます。人と話すことも実はそういうことなんです。自分が考えていることを話すことによって、自分が話したことが相手の反応として客観視されます。客観視されることでいろいろなことをもう一度理解でき、自分に戻すことができます。
『チャイルドライン』ではそれをやりたいんです。他者とのこのやりとり、その経験を重ねることで子ども達の意見形成支援につながるといいと思っています。子どもたちは気持ちを言葉にできません。状況についてはいくらでも話せるけれど、自分の気持ちを言うことができないんです。
人間の行動の8割は気持ちで決定していきます。実際には気持ちなどどうでもいいと思ってるかもしれないけれど1番大事です。気持ちがどうであるかによって、人との関係性も全部作られていきます。けれど、その気持ちが重要視されていないんです。」(田部さん)
子どもを支える仕組みを市民がつくる。それがNPO。
「組織の中心になる運営者はもとより現場で事業に関わる人も、専門家ではなく地域の人です。地域の人たちを組織していくことで、少しでも社会を変えていきたい思いがあります。崩壊してしまった地域社会を昔のようなかたちで再生することはできないけれど、私たちのやり方で少しでも再構築できないだろうか、という思いです。『チャイルドライン』で子どもたちが話したいことを聞く。子ども達には『ありのままでいい』ことや権利の問題がどのようなものかを知ってほしい。あなたには意見を表明する権利も判断するための情報を受け取る権利もあるんだよって。NPOは社会のニーズを受け取り自分たちの思いをミッションに組織化して事業展開をしていくことなのかと思っています。結果、社会を変えていくことにつながる。本来NPOはそういった機能をもつ組織だと考えています。
私たちは地域社会の再構築も視野に入れているNPOとして、専門家ではなく、研修を受けた一般市民が関わっていくことが大切だと考えています。勿論専門家や行政も関わります。目的を明確にして、危機管理もきちんと行って責任を持つ。それはNPOとして当然なすべき責任でありそのことによって初めて、行政や企業と契約を結び、事業を実施することができる。事業を実施し、ふりかえりをして、次の方向性を決めていく。事業実施のプロセスを丁寧に行っています。ケアやふりかえりを行うことが事業を展開する上での保障になります。関わる一人一人が責任をもち、事業に参加していく努力と、一人一人が輝いて活動をしていけることを目指してます。」
「子どもが育つには、大人の関わりが必要です。人垣の中でしか子どもは育たない。子どもたちの育ちを支えたいという気持を持つ人たちがどれくらいいるか、またそういう思いのある人達を組織化できるか、大勢の人に関わっていただけるか、が重要です。子ども達にはそういった大人がいることを知ってほしい。そういう関係ができるからこそ、子どもも大人も考え方が変わる。特に子どもたちは、親や教員ではない価値観や考え方の大人がいることを知ってほしい。地道にやるしかないと思っています。
さきほど『斜めの関係』と言いましたが、中には、子どもに『忖度してほしい』と思うサポーターもいたりします。『チャイルドライン』の振り返りの中で、『なぜそうしたくなるのか』という気持ちをサポーターに聞きながら、サポーターが自分に向き合う時間を持つことをとても大事にしています。クールに入ったとき、終了直後に1時間ほどするふりかえりの他にも、2ヶ月に1回は各地域毎で集まってのふりかえりをします。(チャイルドラインは県下の8実施組織が7つの拠点で展開しています)そして、3ヶ月に1回はアドバイザーだけの集まりを持っています。
*サポーター:チャイルドラインで子どもの相談を受ける人
*アドバイザー:サポーターを支える人
おわりに
「子どもたちが自分らしく生きて、きちんと主張ができて、社会を変えていく存在になっていく。子どもたちが成長して大人や親になっていくわけだから、そこに可能性があると思っています。だからこそ、子どもに関わる活動をしています。だけど長いですね。スパンが。」(竹村さん)
「実際に自分がいろんなことをやってみたときに、「これは行政ではできない。企業でもできない。私たちしかできないことがある」と思いました。そこに社会をどう変えていきたいかという思いや情熱があって、それを実現するために自分たちでお金も作っていく。私たちは少数派です。「ごまめの歯ぎしり」。でも「歯ぎしり」をしていると音が出続けます。誰かが聞いてくれるかもしれない。そこに自分の意義と生きる価値がある。嘆いていることではない。できることから1歩1歩進みます。」(田部さん)