あとがきで著者も述べているように「新しい暮らし方の模索」をする本です。
機械化やAI化が進み、他人と顔を合わせたり対話をしなくても何でもできてしまう時代になってきました。家にいてもいつでも買い物ができたり、わざわざ人に聞かなくても知りたいことを知ることができる。とても便利な世の中になりました。しかし、人間らしさをなくした結果、余計に不平や不満が生まれる…。相手の正体がわからない時、人は強い恐怖を感じるそうです。
人との関わりとは、本来面倒なもの。面倒だけれども、顔を見合わせ、時間をかけて話し合いをすることで折り合いをつけ、前へと進めていく。昔であれば当たり前のようにやっていたことが、今の社会ではなかなか難しくなっています。
著者が紹介するのは、街の真ん中で焚火を囲む「ヤキイモタイム」です。そんなことできるの?苦情がでるでしょ?と思ったあなた。苦情は、不安からくるもの。きちんと説明すれば、大抵はわかってくれるそうです。
地域の人に企画を説明することから始め、当日は地域の人が集めてくれた落ち葉で、それぞれが持ち寄った食材を使い、みんなで焼いて食べる。食べに来た人も「お客様」ではなく、火をおこして芋を焼く「当事者」。突然雨が降ってきたら、みんなで慌てて片付ける。ちょっとしたトラブルは「お客様」から「当事者」となるきっかけにもなる。企画者が何もかもきっちりと運営してしまうと、「あそび(隙間)」がなくなって、お客様はお客様のまま。それでは良い関係はうまれない。もちろん片付けもみんなで。そして火を囲むことで自然と会話が生まれ、知り合いになり、次へとつながっていくそうです。
本書には「ヤキイモタイム」以外にも全国のたくさんの活動が紹介されています。このような取り組みがもっと注目され、昔を懐古するだけではなく、現在、そして未来の「新しい暮らし方」を考えるきっかけになればよいなと思いました。