【取材(企業のSDGs取組)】毎日使うタオルだからこそ…。
森田 壮さん(おぼろタオル株式会社 専務取締役)
近鉄電車の車窓から見えてくる「おぼろタオル」の本社、工場。創業明治41年(1908年)、100年以上使い続けられているタオルです。自社工場にて織、加工、縫製の一貫生産体制で作られ、三重県ブランドにも認定された、繊細で美しく、使いやすい日常使い用のタオルです。
「なぜ、おぼろ?」
日本にタオルが輸入されてようやく少しずつ普及してきた頃、三重県は国内有数のタオル産地となりました。
「当時はまだ日用品としてタオルが普及していませんでした。当社はそもそも繊維関連の事業をしていたわけではないんです。でも、『タオルを日用品として普及させたい』、また無地のタオルが多かったので、画家であった創業者の発想から『模様の入ったタオルをつくりたい』という想いで「朧染タオル製造法」の特許を取得しました。
おぼろ染めは、ヨコに色を染める技術です。おぼろ染めがされたヨコ糸でタオル地を織ると少しぼやけた模様をつくることができます。乾いているときはぼやっとしているのですが、水に濡れるとくっきりと模様が浮かび上がってくるんです。その変化がおぼろ月夜にかかる雲が晴れていく様子に似ているので『おぼろタオル』。趣きのある染めなんです。」
作り続けて116年
「116年の間に社会状況がかなり変わりました。戦後の経済成長期、バブル崩壊。今は海外からいろいろなものが安い値段ではいってきます。社会の変化、荒波の中で「常に生き残る」ことはとても難しい。
そのような状況のなかで『地元の方に日用品として以外に贈答品としても使っていただけるようにする』『またこのタオルが使いたいというリピーターのお客さまを増やし続ける』しかないと考えています。
大量生産、大量消費、コスト競争、価格競争に巻き込まれる『ものづくり』をしていても疲弊するばかりです。そうではなく、『地元に愛されるものづくり』『地元で行うモノづくり』『昔からのものづくり』『これからも続けられる新しいものづくり』といったこだわりを持ち続けたいんです。」
こだわりのタオル
「タオルの品質と一言でいってもいろいろな面があり、『肌触り』といった感覚的なものや、『吸水性』『耐久性』といった機能的な面があります。おぼろタオルが特に優れているのは『高い吸水性』です。吸水性がよく、絞りやすい。たくさん水は吸うけれど水分を吸収しすぎて重くて乾かないタオルは、タオルを使っている人には便利だけれど、洗濯をする人には不便を感じてしまいます。こんな乾きにくいタオルはもう買わない、使いたくないと思われてしまってはいけない。1回使っていただいて、『次もこのタオルを使いたい』と思って買い求めていただくために、お客さんの心をつかまないといけない。そのためには、毎日使うものなので、毎日使いやすく、洗濯などお手入れをするときにも快適さを『価値』として届けることが必要だと思っています。もちろん、機能面以外にも『心地よい柔らかさと優しい肌触り』といったおぼろタオルにしかない官能的な感覚も大きな特徴のひとつです。
会社創業の理念は『使い勝手の良さは必須。不便であってはならない』です。創業当時から守り続け、アップデートしながら作り続けていくことが大切です。
真摯に真面目にものづくりをする。『吸水性が優れています』と言ったからには、使っていただいたお客様に『ほんとうに吸水性が抜群、使いやすい』と感じていただけるようにしないといけません。そんな気持ちで作り続けています。」
タオルとサスティナブル
116年という長い年月、生産し続け、使われ続けていることがまさにサスティナブル。人々が必要としているから使い続けられています。
「今はSDGsをうたわないとビジネスが成り立ちにくい状況にあります。お客さまとの商談でもSDGsに取組んでいることが当たり前になっている。当社の製品を扱っていただくための前提条件になっています。当社は『昔からやり続けていること、これからできること、メーカーとして果たさないといけないこと』をSDGsとして掲げています。特に、重要だと考えているのは、『継続』でしょうか。その時その時代に会社に携わった人が引き継いでいくことが会社の事業継続の要です。地域の企業が継続すれば、地域の経済や雇用を守ることができます。
環境面では、タオルを生産・運搬する際の温室効果ガス削減の取組みや、生産の際の水使用量の削減(再利用)に取り組んでいます。自然を大切に、自然を生かした技術で生産をしていることから『三重ブランド』に認定されています。また、自社オリジナル製品へ積極的にサステナブルコットンの使用を促進しています。他にも人体に有害な物質が含まれていないことを証明するエコテックス認証も取得しています。この認証はとても厳しく、安全な繊維製品の証をする世界でトップレベルのものです。だからこそ、産まれたてのあかちゃんにも安心して使ってもらうことができます。
他にもダンボール、ビニール袋等の再利用や、エコパッケージ、エコインキの使用推進、排気・排水の清浄化、化学物質の適正管理等を行っています。
今はタオルの原材料を仕入れる時にサスティナブルなもの、地球環境に負荷を与えないものを選定してくれています。SDGs、サスティナブルが取引の前提条件に入ってきています。パッケージの素材やインクに関しても、FSC認証の紙を利用したもの、エコインクを資材会社が提案してくれます。昔はコストが高かったのですが、今は選べるようになりました。できるだけサスティナブルなものを選択しています。」
地域のファンと一緒に…。
おぼろタオルの社員の方はほとんどが地域の人。地元の高校生、高校出身の新卒の人を定期的に採用しています。
「三重ブランドにも認定されているので、『三重』を大切にしたい。『地元』を大切にしたい。でも、大きなことをしようとは思いません。自分たちにできることを続ける。それだけです。自分たちの実力で地道に生き残っていく。一気に売上をあげようとしたり、会社を身の丈以上に大きくすることはできません。これから先、人口が減っていく中で、タオルを作っているメーカーも減ってくると思います。結局、生き残りの競争のなかにいなくてはいけなくなる。でも「他には作れないものづくりで固定のファンを持ち続ける。おばあちゃんが使っていて、お母さんが使っていて、それをまた子どもが使って、というように『人伝え』でつないでいく『ものづくり』をしていきたいんです。」
取材を終えて
おぼろタオルの魅力を十分に感じることができました。116年間、三重の地で生産し続け、使用されている「タオル」。品質と素材にこだわり、また生産過程での環境負荷にも十分配慮し、地域に愛され、地域の誇りとなる「ものづくり」をされています。さらに、地域人材の雇用を徹底し、「他社が作れないものをつくる」というぶれないミッションを持ち続けられている。
サスティナブル、持続可能な「ものづくり」のヒントをじっくりお聴きすることができました。
「人伝えでつなげていく」「使い手を想像してつくりだす」「昔と今と未来をつなげて作り続ける」。
持続可能な社会における「ものづくり企業のありかた」をしっかり気づかされました。