学校内居場所カフェってなに?
なんで学校に居場所が必要なの?
学校と地域の連携が生み出すものは?
そんな疑問を皆さんと一緒に学びあうフォーラムです。
日時:2024年8月25日(日)13:30~16:15
場所:桑名市メディアライブ 1F多目的ホール
参加者:120名
主催:NPO法人太陽の家
※みえ市民活動ボランティアセンター「県民応援NPOプロジェクト」採択プロジェクト
【報告】※一部抜粋
講演「学校の中に先生や親以外の大人がいる意味と価値」
石井正宏さん(NPO法人パノラマ理事長)
校内カフェを始めたきっかけ
生徒の相談にのっていただきたいと神奈川県の高校から依頼があり、先生が生徒を1日3、4人くらい保健室に連れてきて相談を聞いていました。でもそのやりかたでは、生徒たちが「扉の向こうにどんな人がいるんだろう」と不安になりとても緊張するのではないか、本音を話すことができるのかなと思いました。生徒は他の生徒や友達にその場を見られたりして、「あいつあんな所に行っている」と偏見を持たれたり、知らない大人に相談にのってもらうことが生徒の恥辱(スティグマ)になってしまうのではないかと思いました。そこで、図書館の司書に「図書館で相談活動ができませんか」と話をして図書館で活動をし始めました。
神奈川県立高校内で行っている支援スキーム
学校の中で親でも先生でもない大人がいることがすごく大事なことだと思っています。
校内カフェは、生徒と支援者、あるいは生徒と地域の人が出会う場所であり、そこで生徒と大人が信頼貯金を貯めていく場所だと考えています。
具体的な支援スキームは3つの活動で成り立っています。一つは、図書館で毎週1回行う校内居場所カフェ「ぴっかりカフェ」です。図書館の「住人」と言われているような生徒や、解放された図書室に集まってきます。お菓子を食べてジュースを飲んで、ゲームやおしゃべり、それぞれ好きなことをします。
青春相談室「Drop.In」という相談対応活動を毎月2回行っています。ドロップアウト、おちこぼれる、外れてしまうのではなく、ドロップイン、ふらっと立ち寄る、参加するという意味です。ここでは個別相談を行い、生徒がもつ日々の悩みや課題をしっかり聴く場としています。
有給職業体験プログラム「バイターン」という就労支援の活動もしています。地域の企業に依頼をし、3日間職場体験を行います。高校卒業したあとどのような進路があるのか、多様な選択があることを体験します。そのままアルバイトに移行する場合もあります。無料職業紹介の支援です。
居場所、個別相談、就労支援を支援スキームとして、「卒業や中退を支援の区切りにしない」「学校の限界を自分たちの限界にしない」ことを活動のポリシーにしています。
機会格差、体験格差という言葉を最近よく聞きます。人との繋がりがないために、文化的なものを認知できず、さらに体験の格差が生じてきて、高校生、ハイティーンは孤立してしまいます。学校内カフェではそうならないように、「文化的シャワーを浴びることのできる場所」としています。
ありのままでいられる場所
先生は評価をしないといけない。けれど、わたしたちNPOや地域の人は生徒の評価をしなくてもよいし、する必要もありません。だからこそ、生徒たちは安心してわたしたちに相談をすることができます。
学校での成功体験がほぼない生徒たちは、多くの場合、先生に不信感を持っています。先生に言っても仕方がないと思っています。先生がたも忙しくて時間をとることができない。子どもたちは空気を読む、その状況を察知する名人であり、大人が忙しそうにしていると声をかけることをやめてしまいます。そうすると先生に生徒の情報や状況が伝わりません。
中学校の支援は大体「不登校」に関する課題がベースになっています。つまり、学校が安心、安全ではないということです。その上、家に帰っても安心できるスペースを持っておらず、中には虐待を受けている子どももいます。そういった子どもたちが「ありのまま」でいられる場所を提供していきたいのです。
居場所とは…
居場所は以前「フリースペース」とも言われていました。フリースペースのフリーは、「いつ来てもいつ帰っても良い」「他人のペースに合わせなくても良い」「誰ともしゃべらなくても良い」「強制的に参加させられない」「価値観を押し付けられない」ためのフリーです。学校の教室での授業とは正反対です。学校の教室ではないもの、非教室的なものが学校の中にあることが非常に重要です。
先生たちの授業はフォーマルな教育で、ある種の計算や計画された取り組みです。そうではなく、その場の即興的な出来事から一人の生徒の興味関心をその生徒の将来につなげるための関わり方をするのが居場所だと思っています。
ソーシャルワークの起点となる生徒のつぶやきをしっかり聴いて、そのつぶやきから支援につなげていくことが大事です。
信頼関係の貯金を貯めること
高校生と地域の人々が信頼関係を育む、信頼という貯金を貯める場が地域にはほとんどありません。高校の中に入り、地域の人たちが生徒と信頼貯金を貯めて、その貯金を使って支援をする取組みが必要なのではないかと考えていました。この信頼貯金が貯まっていないのに、生徒にアプローチするのはとてもグロテスクなことだと思います。
こんなことがありました。
学校内居場所カフェでお味噌汁を提供しているのですが、お味噌汁が一番人気なんです。インスタントの味噌汁ですが、具と味噌がありますよね。なぜかいつも味噌だけが余る。どうしたかなと思っていたら、生徒たちは、味噌汁の具をいくつも入れてお味噌汁を飲んでいるんです。わかめなどの具を1つの味噌にいくつもいれているんです。だから味噌だけがあまる。そうやってお味噌汁の具でおなかを満たそうとしているんです。お昼ごはんを持参していない生徒がたくさんいることに教員はやっと気づきました。
スマホを持っていて、カラーコンタクトをはめていてどこが貧困なの?と思われるかもしれません。でも彼ら彼女たちのお金は、お弁当代はそこに回っているんです。
お菓子やジュースもとても大事です。お菓子をポケットにいれてすぐに帰ってしまう生徒もいます。ですが、お菓子をネタにしゃべることもできる。その時間や期間がとても大切です。生徒の状況を把握して少しずつ話をする関係ができ、ソーシャルワークがはじまります。校内居場所カフェはそのきっかけの場です。
不公平な社会にいきている子どもたち
経済格差はそのまま教育格差につながっています。勉強ができない、勉強が嫌いな子どもたちはその子どもの問題ではなく、勉強する土壌や環境にいなかった子どもたちだと考える必要があります。子どもの自己責任で片付けてはいけません。ある意味日本は、教育を家庭の状況に丸投げしています。借金をしないと大学にいけない状況になっています。進学指導は大切ですが、指導だけではなく支援も大切です。今の日本の教育においては、指導と支援がバランスよく整っていないのではないか、と思います。
学校内にある居場所カフェをNPOに任せる、地域の人が学校に入れるようになる。生徒とNPOや地域の人が出会い、話をし、相談をする関係が育まれる。指導ではなく、支援、多様な支援が可能になります。
こんな経験ありませんか。小学校の時に泳ぐことができない子どもたちだけが残されて指導を受ける。恥ずかしくていやだなと思いませんでしたか。学習支援も同じです。勉強ができない子どもたちだけが集められる。それも子どもたちの気持ちを考えると、されたくない支援です。
泳げない子どもたち、勉強できない子どもたちが、だれもが利用できる、スティグマ(恥辱)を生まない支援が重要です。
子どもたちが悩みや困りごと、助けを話しやすい人や場所、時間をつくりだすこと。そのアウトリーチ型の一つが学校内居場所カフェだと考えています。校内居場所カフェ全国ネットワークをつくりました。全国に校内居場所カフェを広げていきたいと考えています。
事例発表
加藤久先生(桑名市明正中学校 校長)
毎月土曜日に1回 時間は11:00~15:30に開催しています。
2024年の1月から7月までの利用者の延べ人数は340人になり、月平均にすると48.5人と多
くのこどもたちが利用しています。明正カフェでは食事の提供を受け、ゲームなどをおこない楽しく過
ごしています。こどもたちからは「時間を長くしてほしい」「また来たいと思う」「スタッフがとても
やさしい」「落ち着いてゆっくりできる」「悪いところは全くない今のままで十分よい」といった感想
を得ています。
坂田広峰先生(三重県立北星高等学校)
北星高校は、定時制(午前、午後、夜間)、通信制の生徒がいます。令和4年にNPOから依頼があり、先行実施高校の視察や3回の試行をし、令和5年職員会議の決定を受けて開催を決定しました。
校内カフェの名前を「ほっとカフェ」と名付けて、定時制については毎週月曜日(昼・夕方)、通信制については日曜日など生徒に利用しやすい日時を工夫して実施しています。定時制の参加者は平均30名、日曜日の参加者は平均11名。教室を2室用意して、賑やかな教室と静かに過ごす教室がある。お菓子や飲みものを用意し、ゲームやお絵描き、おしゃべりをして過ごしています。
ボランティアは常時5~8名の参加がある。参加した生徒が「太陽の家」の企画に参加しています。
山田恭平さん(NPO法人こどもNPO)
名古屋市緑区に拠点を置くNPOです。子どもの権利を保障する、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」を基盤とした子どもが社会に参画する機会や場を作っています。
子ども支援として児童館の運営や校内居場所カフェをしています。
名古屋市の市立高校、若宮商業高校、緑高校、富田高校、工業高校で校内居場所カフェを実施しています。すべて全日制校です。無料のカフェスペースにボードゲーム、カードゲーム、漫画などを持ち込みゆったり過ごす場を提供しています。先生や親とは違うおとなが学校で生徒たちと一緒に過ごします。
カフェでの関係性づくりを通して、生徒たちが持っている力が発揮できるよう、また抱えている課題に気づき、必要に応じて相談支援につなげています。
対馬あさみ(NPO法人太陽の家)
資料に添付しましたが、いじめの認知件数、不登校児童生徒数が増加しています。しんどい子どもたちがたくさんいます。わたしたちも活動をすればするほど子どもたちのしんどい声を聴きます。
校内カフェの子どもたちの感想はさきほどありましたが、「たのしい」「自由に過ごせる」「ゆったり過ごせる」「見守ってもらえる」「安心して過ごせる」…です。
今日はこんなにたくさんの人に参加いただきありがとうございます。学校内カフェを広げていきたい。そして、子どもたちの支援をするユースワーカーを増やしたいと考えています。まだまだ課題はありますが、今後ともよろしくお願いします。
主催者のふりかえり
アンケート回答者全45人中36人が「子ども・若者の居場所活動をしてみたい」と回答。また、当日6名からユースワーカー講座への申込があった。
知識を得るだけでなく、実際に関わりたいという気持ちを持ってもらえるフォーラムにできた。
フォーラムをふりかえって
中学生・高校生、いわゆるハイティーン世代にとって「安心して自分らしくいられる場所」が必要であること、もしくは「現状そういった場所がない」ことを痛感した。「なぜ、ないのか」を考えつつ、このような状況や環境にいる中高生にとって学校内に居場所カフェを作ることの意味と意義を理解することができた。
学校と保護者とNPO、地域の人々が連帯して、中高生の存在を受け止め、包み込む場がなぜないのだろう。とても不思議であった。あえて「学校内居場所カフェ」を作らなければいけない状況は、現状社会の限界をも感じさせる。
学校や家庭に任せすぎていた「子どもたちのそだちやまなび」のありかたを地域で再考することが喫緊の課題である。それを牽引するNPOの社会的存在価値をどう伝えていくか。中間支援組織として考えさせられた。